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シドクリ通信第105号

【ハンセン病と精神疾患】

 高校時代、現代国語の授業で北條民雄の「いのちの初夜」を読みました。私はこの小説を全文読んでみたいと思い、神田の大型書店に出向き、文庫本(短編集)を買って読んでみました。当時は不治の病であった“らい病”と診断された著者が、絶望的な気持ちで療養所に入所した最初の一夜の情景が生々しく描かれ、私は強いショックを受けたの覚えています。

 その後、医学部の皮膚科学の授業でらい病を学びましたが、その頃、映画館で見た映画が、松本清張原作、加藤剛主演の「砂の器」でした。ある殺人事件の捜査線上に人気作曲家が浮かび上がり、彼が病身の父と各地を巡礼する姿が映し出されますが、その背景にあったのがらい病(ハンセン病)の存在でした。この病気により当事者がどれほどの偏見や差別を受けてきたか、私の心に深く突き刺さるものがありました。

 さて、歳月が流れ2023年、知人の医師がハンセン病療養所の多磨全生園(タマゼンショウエン)で働くことになりました。私は早速、彼に連絡し、東村山市にあるこの療養所をクリニックのスタッフたちと見学させていただくことにしました。

 ここは全国13カ所の国立ハンセン病療養所の一つで、現在は百人程度の患者さんが入所しています。東京ドームの7倍以上の面積を持つ広大な敷地内に美しい森を抱き、入所者の住宅、治療棟、寺院、教会、神社、レストラン、公園、数々の石碑、納骨堂まであります。園長先生を表敬訪問した後、学芸員さんの案内で園内を散策しながら施設の説明を受けました。敷地内にある「国立ハンセン病資料館」では、ハンセン病に関する体系的な学習ができました。

 私は知らなかったのですが、ハンセン病をテーマにした樹木希林主演の「あん」という映画はこの療養所で撮影されたそうです。

 現在は新規の感染者はほとんどなくなりましたが、たとえ感染しても外来の薬物療法で治るようになりました。全国の療養所にいる患者さんは高齢化していて、長年の療養所生活で社会復帰できなかった人たちが静かに生活しています。かつての「らい予防法」はハンセン病患者を隔離の対象として生涯入所させるというものでしたが、1996年に廃止されてからは患者さんは自由に外に出られるようになりました。

 ハンセン病の歴史は精神疾患の歴史と重なるものがあります。隔離療養→開放療養→外来治療への流れ、偏見や差別という面においても同様です。精神疾患の場合、日本では精神保健福祉法で強制入院や身体拘束が認められていますが、国連の障害者権利委員会は日本政府に対し、強制入院は障害に基づく差別であると指摘し、自由の剥奪を認めるすべての法的規定を廃止するよう勧告しています。国連の理念とわが国の現状には、まだまだ開きがあると思いました。


【就学相談】

 私が長いこと携わってきた就学相談についてお話しします。就学相談の最大の目的は、特別な支援を必要とする子どもの就学について相談することです。主として小学校・中学校入学前に行われ、子どもの就学先として通常学級・通級指導学級(まなびの教室)・特別支援学級・特別支援学校のいずれが適当であるか、保護者同席の上、相談します。相談時間は通常は30分で、保護者からは子どもの普段の様子をお聴きし、就学についての質問や要望をお受けします。

 私が小学校6年生の就学相談を引き受けるようになったのは、新宿区立中学校の精神科校医に任命された平成11年頃と思いますので、かれこれ24年になります。当初は知的障害の児童を中心に、年間15件程度だったと思いますが、相談件数は年々増加の一途を辿り、最近では年間50件にも及ぶようになりました。休診日にコズミックセンターに出向いて相談に乗っていたのですが、あまりにも忙しくなってきましたので、教育委員会にお願いして、今年3月をもって退任させていただきました。

 相談件数が増えてきたのは、発達障害圏の相談が増えてきたことが最大の要因ですが、これは最近の大人の発達障害の増加と呼応するものがあります。障害児教育の現場では、わが国は国連からインクルーシブ教育(分離された特別教育をやめ、障害のある者とない者が共に学び、共生社会の実現をめざす考え方)を勧告されています。

 現在、精神科医療も障害児教育もわが国は国連から宿題を突きつけられた形になっています。近年は日本の国力の低下が目立ちますが、日本政府はこの勧告を真摯に受け止め、わが国が真の一流国となるべく叡智を集めて取り組んでほしいと思います。

【お知らせ】

・当院は予約制です。初診の方は電話かホームページで、再診の方は電話、窓口、予約サイトで予約してください。当院の電話は8時半から18時20分(土曜日は15時50分)まで対応しています。

・当院は保険医療機関です。初診時と毎月初回の受診時には、必ず保険証をご提示ください。自立支援医療をご利用の方は、受診の都度、受給者証をご提示ください。

・処方箋を受け取った方は、調剤薬局に提出する前に、必ず内容をご確認ください。

・最近、医療用医薬品の供給不足が続いております。当院は絶えず近隣の調剤薬局からの情報入手に努めていますが、医薬品の供給は流動的です。お気づきのことがありましたら何なりとお申し出ください。

・当院では保険証以外にもオンライン資格確認ができます。マイナンバーカードで保険診療を希望される方は、受付のカードリーダーをご利用ください。マイナ保険証をご利用の場合も、診察券や自立支援医療等の公費受給者証は、これまで通り受付にご提示ください。

・厚労省は7月31日をもって、新型コロナウイルス感染症における時限的、特例的な取扱いの終了を決定しました。8月1日以降は、電話再診時の処方箋や薬物の郵送はできなくなります。必ずクリニックで診察を受けてから処方箋をお受け取りください。

・8月24日(木)から31日(木)まで夏季休診とさせていただきます。

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