top of page

シドクリ通信第107号

【はじめに】

 今年は元旦早々、能登半島地震が起こりました。東日本大震災以降、最大規模の地震です。次いで1月2日には羽田空港航空機衝突・炎上事故が起こりました。被災された皆さまには心よりお見舞い申し上げます。今や私たちの周りはいつどこで災害が起きてもおかしくない状況にあります。

 私が産業医を務めている某社の衛生委員会では「寒暖差疲労」が話題になりました。最高気温と最低気温の差が7度以上になると、全身倦怠感、頭痛、めまい、体の冷え、肩こりなど、寒暖差疲労の症状が出てきます。寒さも堪えますが、私は昨年夏の暑さの方が辛かったです。まだ冬なのに、今年の夏が心配です。皆さんは如何でしょうか?


【音符と昆布】

 診療所協会主催の映画上映会で2008年作品の「音符と昆布」を鑑賞しました。嗅覚がないという妹(市川由衣)の家にアスペルガー症候群の姉(池脇千鶴)が帰ってきます。姉はメロディーを音符で記憶していて、昆布茶漬けが大好物です。完璧でないとパニックを起こします。なぜか街路灯にも執着しますが、妹は街路灯の写真を180度回転すると音符になることに気づきました。そして、障がいのある妻を失い、二人の娘を温かく見守る父(宇崎竜童)。人間には個性や特性があって、それを認め合うことでそれぞれが生きやすくなります。芸術的な映像が心に染み、人間の多様性について考えさせられました。

 私の診察室にも多様な人たちが訪れてきます。人生相談に近い人から、発達障がい、精神障がい、知的障がい、視覚、聴覚、歩行、言語に不自由のある人まで様々です。

 私の診察室には病院時代のOB会の写真が置いてあります。その中にかつての主治医の姿を見つけ、手を合わせていく人がいます。書棚の貯金箱にお賽銭を投げ入れていく人もいます。私は長らく度がない眼鏡で診察していますが、対象はぼんやりするものの、その方が目が疲れず、人の心がよく見える気がします。(ホンマかいな?)今年も多様な人々とお会いできる喜びを感じつつ、診療に励んでいきたいと思います。


【ハーム・リダクション】

 2018年10月より、東京精神神経科診療所協会の理事の立場で、東京都アルコール健康障害対策推進委員会に出席しています。当初は「推進計画策定委員会」でしたが、現在は「推進委員会」に変わりました。この委員会の目的は、東京都アルコール健康障害対策推進計画の策定に伴い、関係機関との連携のもと、アルコール健康障害対策を進めることにあります。

 その会議でよく出てくる言葉に「ハーム・リダクション」というのがあります。ハームとは害とかダメージという意味、リダクションとは減少とか削減という意味です。従来からアルコール依存症の治療は断酒が原則でしたが、現在では必ずしも断酒に繋がらなくても、アルコール使用により生じる健康・社会・経済上の悪影響を減少させることを目的とするプログラムが考えられるようになってきました。「やめる」ことより「ダメージを減らす」ことに焦点を当てていることが特徴です。

 ここで、減酒治療について考えてみましょう。大酒飲みのすべての人がアルコール依存症ではありません。ですから、多くの人は断酒プログラムに馴染まないのです。断酒した方が良い場合でも、最初からは断酒プログラムに繋がらないことも多いのです。しかし、すぐに断酒することができなくても、とりあえず飲酒による身体的・社会的なダメージを軽減させることが重要です。アルコール分の少ないお酒を選んだり、お酒を小さなグラスで飲んだりするなど、飲酒習慣を改善させる方法から、最近では飲酒欲求を抑える薬や、飲酒量の低減を目的とする薬も発売されるようになりました。

 私は若い頃、現在の久里浜医療センターに勤務し、アルコール病棟を担当していました。当時はアルコール依存症の治療には断酒が不可欠でしたので、入院に当たっては断酒へのモチベーションを確認し、断酒する意思のある患者さんを選んで入院させていました。しかし、世の中は大きく変わってきました。

 現在、我が国のアルコール消費量は減少傾向にあり、国民健康・栄養調査(厚生労働省)において、「月に1日以上の頻度で飲酒をする者」の割合は、男女とも低下傾向にあります。また、「飲酒習慣のある者(週3日以上、1日1合以上飲酒する者)」の割合は、平成22(2010)年は男性35.4%、女性6.9%で、令和元(2019)年は男性33.9%、女性8.8%であり、男性は低下傾向、女性は上昇傾向にあります。

 多量に飲酒する人の状況については、生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者の割合が、令和元(2019)年の調査では男性14.9%、女性9.1%となっており、平成22(2010)年以降の推移でみると男性で有意な増減はなく、女性では有意に増加しているのです。

 このように、日本人の飲酒状況は大きく変化してきましたが、特に女性は元来アルコールに脆弱であるにも拘わらず、習慣飲酒者や多量飲酒者の割合が増えているのです。これはまさに最近の女性の社会進出と関連しているのでしょう。

 最後に、くれぐれもお酒の飲み方には注意し、豊かで健康的な飲酒文化を育てていきたいものです。ただし、お酒は20歳になってから。


【お知らせ】

・当院は予約制です。初診の方は電話かホームページで、再診の方は電話、窓口、予約サイトで予約してください。当院の診察日の電話は8時45分からつながります。最近、予約が混んできましたので、受診日が決まりましたら早めに予約してください。

・当院は保険医療機関です。初診時と毎月初回の受診時には、必ず保険証をご提示ください。自立支援医療をご利用の方は、受診の都度、受給者証をご提示ください。

・処方箋を受け取った方は、調剤薬局に提出する前に、必ず内容をご確認ください。

特集記事
後でもう一度お試しください
記事が公開されると、ここに表示されます。
記事一覧
アーカイブ
タグ
まだタグはありません。
Follow Us
  • Facebook Basic Square
  • Twitter Basic Square
  • Google+ Basic Square
bottom of page