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シドクリ通信第81号

【ピアサポート文化を考える】

 “発達障害当事者会フォーラム2017”に参加しました。会の趣旨を理解せぬまま、私の患者さんがパネリストとして登壇するというので行ってきたのです。王子の“北とぴあ”の会場は超満員で、200人近い参加者があったと思います。来賓として議員連盟の国会議員や厚労省の担当官、著名な精神科医が呼ばれ、メディア関係者の姿もあって、重要な集まりであることを理解しました。

 第一部では大学の社会学、心理学、社会福祉の先生方が、「発達障害当時者同士の活動支援の在り方」について講演されました。休憩を挟んで第二部で「発達障害者同士の活動を考えるフォーラム」が開かれました。“Neccoカフェ”を初めとして、12の当事者団体のメンバーがパネリストとして壇上に並び、「当事者会を始めようとしたきっかけは?」とか「会で困っていることは?」などの質問に答えていきます。このやりとりから、当事者の抱える問題、当事者会の運営の実際がよく理解できたと思います。

 発達障害といえば、私たちはASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)、LD(学習障害)を思い浮かべますが、ここにはチック症の一種であるTS(トゥレット障害)やSS(きつ音〔症〕)の当時者会も参加していました。特にきつ音〔症〕の当事者団体である“東京言友会”は、発達障害者支援法にきつ音が含まれていることを理解してほしい、会には障害者認定への反対派もいて考え方の違いで組織が分断されていると切実な訴えをされていました。フォーラムも終盤を迎え、私は司会者から発言を求められたので、この会の感想も含めて少しお話しさせていただきました。

 私は診療所を開業して20年になりますが、開業した頃は発達障害という概念すら存在していなかったと思います。しかし、平成16年に発達障害者支援法が制定されて以来、始めは子どもの発達障害が、現在は成人の発達障害が世間の注目を集めるに至っています。

 精神科診療所にはいろいろな所から発達障害の人が受診してきます。思春期の子どもは落ち着きがない、ルールを守れない、忘れ物が多い、不登校などの症状で受診しますが、その背景に発達障害の存在がうかがえる人が多くいます。大学生は大学に入学したものの、人の気持ちに共感できなかったり、怠学や留年を繰り返して受診してくる人がいます。また、何とか社会人になったものの、職場に適応できずに出勤不能に陥って診察を求めてくる人、Neccoのような当事者会から紹介されてくる人など実にさまざまです。さらに、就労移行支援事業所で就労を目指している人の中にも見られますし、最近は中高年の発達障害もしばしば経験するようになってきました。

 マイノリティ(社会的少数者)が安心して発言できる場が当事者会なのでしょう。しかし、そもそも対人関係やコミュニケーションに障害を抱える人々が集団を作ることは、極めて困難なことと思います。地域医療を担う精神科医としては、彼らのエネルギーが実を結び、ピアサポート文化が育っていく過程を見守りたいと思います。

【日本人の死生観】

 当事者会フォーラムの1週間後、国際保健の団体が主催する「異国での生と死をみつめて」という講演会に行ってきました。

 初めに作家の浅田次郎さんが「日本人の死生観」をテーマに基調講演をされました。神道は日本人のアイデンティティであるが、宗教性がない。仏教は教義を持っているが、よそから来たものである。ゆえに、日本人の死生観はあいまいなもの。日本人の死とは自然に帰るということなのであろう。浅田さんはユーモアを交えながら、日本人の特殊性について深い考察をされました。

 続いて、外務省診療所長、国際霊柩送還士、多文化カウンセラーによるシンポジウムが行われましたが、私が興味を持ったのは国際霊柩送還士の仕事をしている女性でした。私はそういった仕事があることを知りませんでしたが、彼女は海外で亡くなった方の遺体や遺骨を祖国に搬送する会社を経営しているというのです。新聞やテレビをにぎわせた事件の被害者・家族は、たいてい彼女らが関わっています。日本人の遺体の帰国手続きと、日本国内で亡くなった外国人を故国に送る仕事という双方向の送還業務に加え、もう一つ大事な仕事は、遺体をできる限り生前の姿、生前の表情に戻して、遺族に引き渡すというものです。遺体は航空便の「貨物」として故国に戻ってきますが、傷ついた遺体を生前のように修復し、死を受け入れられない遺族への橋渡しをする。「心をつくして、ご遺体の修復、腐敗抑制の作業を行います」「死の背景は一人ひとり違います」「火葬できれば遺骨を手荷物として持ち込めます」「ご遺族は遺骨が仏壇に戻ると落ち着きを取り戻すのです」「私たちはご遺族のお世話係ですね」などと淡々と語る送還士の言葉が心に響きました。

 映画「おくりびと」の仕事をさらに専門化した仕事に思えましたが、この仕事は、突然愛する人を失って動転する遺族に対して、故人との別れを演出するグリーフケアなのだと思いました。

 人間は自然災害やテロなどにより、予期せぬ死に見舞われることがあります。それが国境を越えた海外で起これば、遺族には法的、文化的、宗教的、経済的な多方面の課題が一気に押し寄せます。その時にそれぞれの家族の事情や国民性の違いによる死生観が問われると思います。

 故あってこの時代に生きている私たちですが、日常と彼岸は隣り合わせです。自分の生を大切にしたいと思いました。

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